固定種と在来種はどのような違いがあるのかよくわからないですよね?
伝統野菜である「在来種」も育種改良された「育成種」も固定種に分類されるので種子区別がわからなくなることはよくあることですよ。
この記事は固定種・在来種・育成種という3つの種子について解説しています。
この3つの種子区分を理解することで菜園家と農業経営者の可能性を大きく広げることになるでしょう。
この記事を読むことで固定種と在来種、そして育成種について理解することができるで食料生産活動に活かしてくださいね。
『固定種』に分類されるのは「在来種」と「育成種」の2種類
[固定種とは形質が固定しておりその遺伝子を子に引き継がせることができる種子のことです]
結論を言うと『固定種』の植物とは特性や形状という形質が一定の状態で固定しており、交雑しない限りその遺伝子情報を親から子へと引き継いでいくことができる種子のことです。
自家採種することでいくらでも種子や野菜を自家増殖することができますよ。
他品種と交雑しない限り連綿と続く生命の環(わ)のように子孫を繁栄させていくことができる持続可能な種子です。
地球環境を維持していくためにオーガニック(有機農業)が推進されていますが固定種こそが有機種子にふさわしい種子だと言えるでしょう。
固定種とは種苗業界の専門用語でありその定義は「固定された形質が親から子へ継承される種子」です。
つまり固定種の野菜を親株にしても交雑(他品種の花粉によって受粉すること)した場合はメンデルの法則によりバラバラな形質の子が誕生するためその種子は固定種ではなく雑種ということになるのですよ。
『固定種』に分類される種子は2種類あります。
それは「在来種」「育成種」です。
伝統品種である「在来種」は生育が均一ではないため同時期に収穫してもそれぞれの大きさが異なるのでは販売するなら[はかり売り]するのがよいでしょうね。
江戸時代から食文化を形成してきた食材なので味がとても良いということが大きな特徴のひとつですよ。
野菜の味は種子と栽培方法で決まるのです。
在来種を使用して技術の高いオーガニック(有機農業)により生産した野菜はとても美味しいですよ。
もうひとつの『固定種』である「育成種」は育種改良という目的のもとに長い年月と労力を費(つい)やして開発された種苗会社や個人のブランド野菜です。
『固定種』である「在来種」と「育成種」について詳しく解説しますね。
私は有機JAS有機農産物生産行程管理の資格を持っており有機JAS認証農地や家庭菜園でオーガニック100%の有機野菜を生産しています。
『固定種』に分類される伝統野菜「在来種」について
[「在来種」は伝統野菜であり『固定種』に分類される種子です]
結論を言うと「在来種」とは伝統野菜です。
『固定種』に分類されているため野菜としての特性や形状を子に引き継がせます。
日本の場合は世界各国から伝来した野菜が各地域に広がり気候風土に適応しながら色々な地方野菜や伝統野菜に変化して現在に至っているのですよ。
そんな在来種が普及したのは江戸時代です。
各藩の大名たちが徳川家への忠誠を示した参勤交代は三代目将軍「家光」のときに制度化され地域の特産野菜を将軍家に献上する機会は増えて優秀な農産物は高い評価を集めました。
全国から武家が集まることで野菜を含む様々な文化は江戸から地方へと広く知れ渡ることになります。
そして城下町(じょうかまち)は賑(にぎ)わい商人は豊かになり職人や武芸者や用心棒などで生計を立てる浪人侍も集まることで経済活動は活発になっていきます。
江戸の人口は江戸時代前期(1603-1651)では町人(ちょうにん:商人や職人の総称)15万人、武家(ぶけ:軍事を主務とする官職)50万人で合計65万人でした。
江戸時代中期(1651-1745)になると町人は50万人に増えて武家の50万人と合わせると100万人を超えて世界で一番大きな都市に発展したのですよ。
人口の増加に伴(ともな)い野菜の需要が高まる中、江戸近郊(きんこう)の農村では農業経営者が誕生し野菜の販売を開始します。
野菜の品種ごとに食味や形状が一番優秀なものを選抜して種子を採取すると自家増殖をおこないました。
種子の選抜淘汰と育成を繰り返して徐々に形質を固定させていったのです。
そして一品種から収穫した農産物の形質がすべて同じになったときその種子は在来種として認められました。
これが在来種が誕生した歴史ですね。
江戸の農業経営者たちが販売する在来種の評価は高く遠方からも種子を求めて人が訪れるようになりました。彼らこそ現在の種苗会社の先駆けだったのです。
在来種の定義は特定の地域に根ざして継続的に栽培される固定種であり歴史的に認知されているため文化的な価値があります。
1950年代(昭和30年代)まで日本の野菜はすべて固定種だった
[在来種を有機農業で栽培するなら健全な大地さえあれば立派に育ちます]
1950年以前に販売されていたほとんどの種子は在来種であり交配種F1が普及し始めたのは1964年頃(昭和30年代の後半)からでした。
交配種F1【交雑品種】が初めて発売された1950年(昭和25年)から1984年(昭和59年)までの全21品種の野菜です。
第二次世界大戦後(1945年)は食料欠乏と物資不足による貧困によって日本国民は大変な状況でしたが1950年頃(昭和25年)には食料の安定供給が実現し戦前と同じ水準にまで回復します。
このように戦前・戦時中そして戦後復興期まで財政難や物資不足による危機的状況の中でも野菜は立派に育ち貧困に苦しむ国民の空腹を満たしました。
実はこの当時に栽培されていた野菜は全て日本伝統野菜の在来種だったのですよ。
在来種を有機農業で栽培するなら健全な大地さえあれば栽培できます。
お金が無くても物資が無くても気候が正常であれば春に種子を播けば夏に、夏に種子を播けば秋に野菜を収穫することができるのです。
そして自家採種することで在来種の種子はいくらでも自家増殖できるため野菜の自給生産は生産者一人で完結することができるのです。
たとえば交配種F1【交雑品種】だけを使用しているなら生産者一人で自給自足を完結することは永遠にできないでしょう。
何故なら交配種F1は自家採種ができないからです。
交配種F1は種子を自家増殖できないので種苗会社から購入しないと種子を入手することができません。
交配種F1を購入できないということは野菜の生産ができないということです。
野菜を生産するものにとって何よりも大切なものが種子なのに交配種F1しか使っていないとしたら、その状態をたとえて言うなら種子の供給者に自分の支配権をゆだねているようなものでしょうね。
交配種F1を入手するには購入するしかなく何らかの理由で種苗会社からの供給が途絶えたり金銭的な事情で種子を購入できないときは野菜を生産することができなくなります。
そしてその可能性をゼロだと言える人は誰もいないでしょう。
何故なら交配種F1【交雑品種】は持続可能な種子ではないことは農業経営者なら誰もが知っている事実だからです。
第二次世界大戦(1941-1945)の終結復興期を乗り越えて食料の安定供給は1950年頃(昭和25年)に実現し戦前と同じ水準にまで回復しました。
1960年(昭和35年)より以前の統計は見つからないのですが農林水産省の食料需給表では1960年において野菜の自給率は100%に近い状態であることから戦前(1940年)においても日本の食料自給率は90%を超えていたでしょう。
参考 環境省-基礎データ集1,7ページ(出典:農林水産省「食料需給表」より作成)[PDF]
戦時中や戦後復興期の貧困状態にあった日本国民を支えたのは在来種野菜でした。
1960年も人々はお米と野菜と魚を中心とした食生活を送っていましたがこの頃から大量生産と大量販売を目的にしたF1品種が使用され始めます。
高度成長期によって重化学工業が発展し農業も工業化して化学肥料や化学合成農薬が急激に使用されるようになりました。
野菜のF1品種【交雑品種】が普及し始めたのは1964年頃(昭和30年代の後半)からでありそれは石油燃料を使用する工業型農業が本格化したことを証明していると言えます。
そして経済成長を優先した食料生産は地球環境を犠牲にしながら21世紀まで続いていくことになるのです。
国民栄養調査によると1950年(昭和25年)の1日平均の摂取カロリーは2,150(kcal)であり成人男性に必要な3,050(kcal)に対して3分の2しか摂(と)れていません。
カロリーは三大栄養素である炭水化物・脂質・たんぱく質で構成されているため約34%も栄養が欠乏していたということです。
統計では野菜の自給率は高くても実際のところは国民の栄養は満たされておらず供給量は明らかに不足していました。
食料自給率は過去も2022年以降も低い状態が続いているのです。
参照 国立健康・栄養研究所-「国民栄養の現状」レポート:昭和25年(1950)-昭和25年度国民栄養調査成績の概要[PDF]
参照 越谷市役所-日本人の食事摂取基準(2020年版)[PDF]
[戦後復興期において貧困状態だった日本国民を支えた野菜は固定種だけです]
F1品種【交雑品種】の野菜が最初に発表されたのは1950年(昭和25年)のタキイ種苗のキャベツ『長岡交配1号』です。
1960年までに各種苗会社から発表されたF1品種の種子はハクサイ『長岡交配1号』・カボチャ『新土佐』・マクワウリ『三光』・ピーマン『緑王』・子持ちキャベツ(芽キャベツ)『長岡交配早生』・カブ『早生大蕪』・ダイコン『春蒔みの早生』・ユウガオ『相生』という10品種だけでした。
世界初のF1品種【交雑品種】は1924年(大正13)に柿崎洋一博士が埼玉県立農事試験場において開発したナス『浦和交配1号』であり昭和まで奈良・大阪・北海道で試験研究がおこなわれましたが第二次世界大戦の影響により販売されることはありませんでした。
交配種F1【交雑品種】についてはこちらで詳しく解説しています。
固定種に分類される伝統野菜『在来種』の解説
野口種苗研究所で販売している野沢菜は健命寺(けんめいじ)の寺種(てらだね)を分けて頂いている由緒ある種子です。
『健命寺(寺種)野沢菜』の来歴は宝暦年間(江戸時代の1751年から1764年まで)に野沢菜温泉村の健命寺8世住職である晃天和尚が京都に遊学した際に持ち帰った天王寺蕪(テンノウジカブラ)から生まれたと言われています。
この野沢菜は信州野沢菜健命寺に250年受け継がれてきた由緒ある野菜であり日本を代表する伝統野菜であることから在来種に分類されているのですよ。
在来種とは伝統的な野菜であり地域の特性と気候風土により長い年月をかけて形質を確立して今に至っています。
成長過程で気候風土に適応するため自家採種と育成を3年も続けるとその地域に応じた野菜へと変化していく性質があるので栽培すると愛着が湧いてきますよ。
関連する人物や地域など誕生した由来が記されている野菜もあれば来歴がわからない野菜もあります。在来種の歴史の深さを物語っていますよね。
『固定種』に分類される育種改良品種「育成種」について
[「育成種」は育種改良によって企業や個人に開発された『固定種』に分類される種子です]
結論を言うと「育成種」とは育種改良という目的のもと企業や個人によって開発された種子です。
『固定種』に分類されているため野菜の形質は子孫に継承されますよ。
育種改良とは遺伝的な改良を意味しており交雑や突然変異などによって誕生した美味しく形が良いものを選抜をして何世代にもわたって種子の淘汰と育種を繰り返し形質を固定させるという自然交配による技術です。
そのため育成種の開発には長い研究期間と多くの労力を必要としますが開発が成功するとブランド野菜として大きな経済効果が期待できるのですよ。
育種改良の名手である渡邉穎二氏は大正11年に宮城県遠田郡美里町に『渡辺採種場』を創業します。
渡邉穎二氏は1924年(大正13年)に白菜の育成種(固定種)『松島純二号』を開発します。
さらに1943年(昭和18年)には『松島新二号』を開発しました。
この2品種は宮城県の「仙台白菜」と称され高い評価を得ており戦前までは日本一の生産量を誇っていたのですよ。
このように育成種とは種苗会社を代表するブランド商品であることがわかりますね。
育成種の定義は新品種として作り出された固定種であり開発した企業や個人にとっては知的財産という価値があります。
PVPは「育成種」における知的財産権の保護を証明する
「育成種」は種苗会社や個人にとっては知的財産であり重要な価値があります。
ですが『固定種』であるためその素晴らしい特性や形質は子孫に引き継がれるので種子を購入した者は自家増殖することが可能ですよね。
もし第三者が育成種を育成して販売したり譲渡すると育成種の価値は下がってしまいます。
それを防止するための法律が令和4年4月1日に施行された改正種苗法なのですよ。
新しい品種を開発して農林水産省に登録するとPVP登録品種として認証され知的財産として法的に保護されるのです。
PVPとはPlant Variety Protection(プラントバラエティ プロテクション )の略称であり植物品種保護という意味ですよ。
PVP登録品種や改正種苗法についてはこちらで詳しく解説しています。
改良品種「育成種」(固定種)をあなたが開発するケース
[あなたが育成種(固定種)を開発し新品種の名付け親になることもできます]
個人による育成種の開発とは偶然にも感じられるような状況でおこなわれることがあります。
たとえばあなたが栽培している野菜の中に別品種とも思えるほどに優秀な形質を持つ個体を見つけることもあるでしょう。
それこそが改良品種なのですが意図せず突然変異や他品種との交雑によって誕生するため菜園で 発見して歓喜することになるのです。
その改良品種から種子を採取して育成と選抜を繰り返すことで形質の固定化が成功するとあなたが開発した育成種(固定種)が誕生します。
固定種に分類される品種改良によって開発された『育成種』の解説
[タキイ育成とはタキイ種苗株式会社が開発した固定種であることを証明しています]
「タキイ育成」という表示によってサウザーはタキイ種苗が育種改良したレタスの品種であることを証明しています。
サウザーはタキイ種苗を代表するブランド商品です。
とても美味しい品種として有名ですよ。
育成種は固定種であり自家採種によって増殖することも可能ですがサウザーはPVP登録品種であるため育成者の許可なく営利目的で自家採種することは認められません。
ただし家庭菜園による自給を目的している場合は制限がないので自由に採種して生産することが認められていますよ。
有機農業をおこなう菜園家は自家採種ができる優秀なレタスを探しているでしょう。
実は販売されているすべてのレタスは固定種なので参考にしてくださいね。
サウザーのパッケージに記載されているペレット種子とは種子加工を施(ほどこ)しているという証明なので有機農業(オーガニック)をおこなっている栽培家は確認しましょうね。
ペレット種子についてはこちらで詳しく解説しています。
『固定種』を育種する基本と日本での有機種子の入手方法
[野口勲代表とご家族
]出典 野口種苗研究所(野口のタネ)
『野口種苗研究所』(野口のタネ)の野口勲代表は「自分の固定種を育てる基本は良い親株を入手すること。そして生産した個体をよく観察して見分け選別淘汰を繰り返して形質を固定すること」だと言っています。
さらに野口代表はコーデックス有機ガイドラインにおける有機認証基準の有機種子についても胸の内を明かしています。
野口代表は「有機農業では種子も有機栽培されたものを使うという基準がありますが日本の種苗会社が販売している種子でこの基準に適合するものは何一つありません。有機農業(オーガニック)をおこなう栽培家や農業経営者が自家採種する以外に日本でこの基準に準拠した種子を入手する方法は無いのです」と語っています。
野口勲代表が言っている通り2022年において日本伝統野菜の有機種子を入手する方法は有機農業(オーガニック)をおこなう菜園家もしくは農業経営者しかいません。
日本伝統野菜の有機種子を販売する種苗会社はひとつもないのです。
この事実はこれから日本で有機農業をおこなう人にとって先駆者のような境地を体感する機会となるでしょう。
希少価値の高い有機野菜(オーガニック野菜)を生産する権利はすべての有機農業(オーガニック)菜園家にあるのです。
今から家庭菜園で有機農業を始めるなら日本が有機農業の先進国になる日、あなたは日本にオーガニック文化のレールを敷くプロフェッショナルになっているかのしれません。
参考 野口のタネ-固定種について(講演要旨)-7.自家採種について
有機種子を生産する方法についてはこちらで解説しています。
まとめ
『固定種』に分類されるのは「在来種」と「育成種」であり特性としては品種の形質という遺伝子を子孫に継承することができるということですね。
そして高品質な有機野菜を栽培するのに必要な有機種子の生産においても固定種はとても重要なのですよ。
オーガニック(有機農業)が持続可能な農業であり地球の持続可能性を高めるなら固定種が自然環境を改善する鍵であると言っても良いでしょう。
この記事に登場した野口種苗研究所(野口のタネ)の野口勲代表についてはこちらで詳しく解説しています。
野口種苗研究所は固定種の専門店!手塚治虫イズムを継承する種苗会社
ぜひご覧ください
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